ホッカムリした泥棒など実在しない

アルバイト先の事務所が泥棒被害に遭い、出社早々警察の捜査協力に応じることになった。事務所内にある関係者以外の指紋を採取するため、あらかじめ関係者の指紋も警察に提出するのだ。銀色に光るインクのようなものを指につけ、言われた通り全ての指紋を提出した。前の事務所から持ってきたとても大きな金庫が、社長室の入口付近まで動かされていたのには皆が驚いた。この大きく思い金庫を、よく社長室奥から入口まで動かせたと思う。途中であきらめて放置した犯人の気持ちもよくわかった。複数犯だったのだろうか。

他の社員さんたちは、そういえば不審な人物を見たとか、口々に思い思いのことを話している。いつもと同じ調子で出社したらこの騒ぎだから、興奮がおさまらないのだ。そういえば何日か前に、このビルでは見ない顔の人と、自分もすれ違った気がする。特に怪しい雰囲気もしていなかったし、お互いに軽く会釈などしたから違うだろうか。いや、ホッカムリした泥棒など実在しない。そんな風に、どこにでもいそうな風貌で、泥棒に入れる場所を探していてもおかしくない。

侵入部と思われる入口ドア部分で熱心に指紋採取している警察の人が居る。最初に出勤した人によれば、鍵はかかっていないどころか、ドアが半開きになっていたという。恐らく鍵は壊されているのだろう。室内は種類が散乱し、引き出しという引き出しが開けられているのですぐには被害状況もわからないのだが、警察が引き上げて行ったあとの事務所内の片づけがまず大変だ。今日は全く仕事にならないだろう。

人の出入りの少ないオフィスビルというのは、空き巣被害に遭いやすいという。特にこのビルは建物の作りが古く、鍵も一昔前のもの。ピッキングでも破錠でも、人がこないなら時間をかけることが可能だ。侵入してから随分長いこと事務所内に留まり、金庫も持ちだそうとしたのだから大胆な泥棒だったのだろう。